富山県済生会高岡病院
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肥満症について

≪肥満とは?≫
 それでは、何を基準に肥満というのでしょうか。肥満の判定には本当は蓄積された脂肪量を調べたいところですが、これを正確に測定することはなかなか難しいので、一応身長と体重から判断するということになります。日本肥満学会から提唱されている基準ではBMI (Body Mass Index)≧26.4が使用されています。BMIは体重÷(身長(m2))で計算されます。BMIが26.4以上ある人では他の病気を合併する確率が急に高くなってくるので、BMIが26.4以上あれば肥満と判断すると決められました。つまり身長150cm、体重60kgの人ではBMI=60÷(1.5×1.5)=26,6となり肥満と診断されます。

≪肥満はなぜいけないと言われるのか?≫
 先に書いたような身長と体重からの計算では肥満とされても健康に過ごしている人はたくさんおられます。しかし、肥満を合併した病気が多いのも事実です。つまり肥満は他の病気を引き起こす原因になりうるのです。よくテレビや雑誌で言われていますが、肥満は高血圧、糖尿病、高脂血症、動脈硬化、心疾患や痛風、また睡眠時無呼吸症候群などに大きく関わっていることが知られています。肥満の改善はこれらの病気の治療に大きく役立つのです。標準体重にまで減らさなくても2~5kg減っただけで他の合併症はかなり改善されます。

≪肥満のタイプと病気≫
 身長と体重から肥満と判断されたら、次は脂肪の蓄積している部位がどこかということが問題になってきます。脂肪蓄積の部位により内臓型肥満と皮下型肥満に分類されます。いろいろな研究の結果内臓型肥満に多くの合併症がみられ、皮下型肥満ではあまり合併症が起こらないことが分かってきました。(もちろん100%これで決まるわけではありません。)内臓型肥満の診断に一番確実なのはおへその高さで腹部CTを撮影して脂肪量を測定する方法です。その他に日常で一番簡単なのはウエスト(おへその腹囲)/ヒップ比を計算する方法です。ウエスト/ヒップ比が女性では0.8以上で、男性では0.9以上で内臓型肥満があると考えられます。体脂肪計による体脂肪の測定も肥満の経過を見ていくには有効ですが、体全体の脂肪の測定なので内蔵型肥満かどうかは分かりません。

≪脂肪細胞からの分泌物≫
 脂肪組織は最近まで単に脂肪の蓄積を行っていると考えられていましたが、脂肪細胞からいろいろなホルモンが分泌され、これが他の病気の発生に関わっている可能性が示されました。脂肪細胞からはTNF-aという物質が分泌されており、これがインスリンを効きにくくして糖尿病の発生に関与すると言われています。その他レプチンという物質も産生されており、これは脳に作用して食欲を抑制しようとしているということも分かってきました。脂肪組織は単なる貯蔵庫ではないのです。

≪肥満症の治療≫
 さて、肥満症の治療はどうすればよいか?健康診断や病院で「やせて下さい。」と言われても実際やせるのはなかなか難しいことだという方も多いのではないでしょうか。病院にも時々やせる薬はないのか、という疑問を持って来られる方がありますが、現在のところ国内で使用できる薬はマジンドールという薬の一種類のみであり、しかもBMIで35%以上の高度肥満症の人に限ってしか使用が認められていません。この対象になるような高度肥満の人は日本人には少ないのです。つまりそれ以外の肥満症の患者さんの治療は月並みですが、やはり食事療法と運動療法ということになります。まずやせようと思ったら、毎日体重を朝晩測定し、できればグラフ化しましょう。これにより自分で食事や運動と体重の変化を確認する良い目安になると思います。食事療法についてはいろいろ研究がなされいますが、低カロリー・低脂肪食がよいと言われています。ただし極端な低カロリー食(1日600kcalなど)では体重は減りますが、脂肪よりもむしろ筋肉が減ると言われています。また短期間の著しい減量はリバウンドを起こしやすいことも分かってきているので、1日の摂取量はエネルギー所要量から500kcal少ない程度として続け、体重は月に1~2kg減らすくらいで行うというのがよいのではないかと考えられます。食事は一日3回、夕食が一番多くならないようにし、ゆっくり食べることです。ゆっくり食べると、食べている間に満腹中枢が刺激されるので、あまり量を食べなくても満腹感が出るのです。肥満の運動療法については全身を使って行う運動がよいと考えられています。軽めの有酸素運動、例えば、ウオーキング、ジョギング、サイクリングなどがよいですが、これらの運動により膝や足を痛めてしまう場合もあるので、水泳などもお勧めです。脂肪の燃焼は糖質の燃焼に引き続いて起こるので最低でも10分は続けることが必要です。一回あたり10分から30分、長くても60分の運動を週に3日以上、できれば週に5日くらい行うのがいいと考えられています以上「肥満」について述べさせていただきました。肥満の改善は目に見えての効果は出にくいですが、体重を減らすことにより他の病気も予防できるので、少しずつでも進めていって下さい。